仙台高等裁判所 平成7年(う)81号 判決 1995年11月30日
本籍
宮城県柴田郡川崎町大字前川字本町六五番地
住居
同町大字前川字中道北八七番地の一
建設会社役員
佐藤晧夫
昭和一七年三月二四日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成七年六月九日仙台地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人及び弁護人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官海老原良宗出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人増田隆男及び同内田正之が連名で提出した控訴趣意書及び控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官海老原良宗が提出した答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
論旨は量刑不当の主張であって、要するに、本件事案の具体的諸事情を考慮すれば、被告人を懲役一〇か月及び罰金一五〇〇万円、懲役刑につき三年間刑の執行猶予に処した原判決の量刑は、罰金刑を併科した点において重過ぎて不当であり、仮に罰金刑の併科はやむを得ないとしても、本件は他の税法違反事件に比し量刑上軽く扱われてしかるべき事案であって、同種事案に対する量刑の実情に照らしても、原判決の罰金額は明らかに重過ぎて不当である、というのである。
そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討すると、本件は、被告人とその父親との共有名義の原判示土地、建物(以下「本件不動産」という。)を、自己の持分については売主として、父親の持分についてはその代理人として売却した被告人が、平成二年分の自己及び父親の所得税の確定申告に当たりその各所得税を免れようと企て、情を知らない税理士を介して、本件不動産売却に伴う自己の分離課税の長期譲渡所得金額を一億二九七万円余り過少申告して所得税二五二九万四七〇〇円を脱税し(原判示第一の事実)、父親の代理人として、同様の方法により本件不動産売却に伴う父親の分離課税の長期譲渡所得金額を一億二九七万円余り過少申告して所得税二五一七万九九〇〇円を脱税した(原判示第二の事実)という事案であるところ、本件に至る経緯をみると、被告人は、自己が代表取締役を務める株式会社佐藤工建(以下「佐藤工建」という。)の抱える多額の借入金を返済しようと考え、その返済資金等を捻出するため、国土利用計画法上のいわゆる監視区域内に所在する父親との共有名義の本件不動産を株式会社力建に売却した際、同法に違反してその規制対価を超える価格で売り渡し、そのことを隠蔽するため虚偽の売買代金を記載した不動産売買契約書等を作成するなどの工作をし、その結果、被告人において自己及び父親の所得税の確定申告を行った際、右売買契約書等を提出して本件不動産売却に伴う譲渡所得を過少申告し、本件各犯行に及んだというものである。
以上のとおり、本件は、そのほ脱金額が合計五〇四七万円余りと高額で、ほ脱率もそれぞれ八〇パーセント余りと高率である上、犯行の動機をみても、国土利用計画法の規制を潜脱するという違法目的のために敢えて脱税に及んだというもので、酌むべき事情に乏しく、同法違反の売買がなされた時点において既に本件の脱税も予定されていたという意味で計画的な犯行であり、しかも、同法に違反する価格で本件不動産を売買するに至ったのは、被告人が右価格での売買を強硬に主張したことによるものであって、被告人の法規範軽視の態度には著しいものがあるといわざるを得ない。
所論は、本件のうち原判示第二の犯行のほ脱額については被告人の父親の所得に関するものであって、被告人は納税義務者ではなく、しかも、その秘匿した譲渡所得、不法利益は実質的にも父親に帰属しているから、被告人の罰金額を定めるにあたり、右ほ脱額を納税義務者自身が行為者である場合と同様に考えるのは相当でない旨主張する。
しかしながら、原判示の各犯行に及んだ被告人に対しどの程度の罰金刑を科するかは、罰金刑併科の趣旨に照らし、本件事案の具体的内容に即して決せられるべきものであるところ、関係各証拠によれば、被告人は、佐藤工建の抱える借入金の返済金等捻出のため、父親の持ち分を含めて本件不動産を処分することにつき、事前に父親の了解を得た上同人から一切を任され、前記のとおり本件不動産の売却に及んだ上、その譲渡代金については、本件ほ脱の対象となった譲渡代金を含め、被告人の持分に関する譲渡代金も被告人の父親の持分に関する譲渡代金も区別されることなく一体として、被告人において、佐藤工建の借財の返済のほか同会社の支払手形の決済等に充てたものであること、他方、被告人の父親は、本件不動産の売買が国土利用計画法に違反してなされたことや、これを隠蔽するための工作が行われたことなどは一切知らず、本件脱税についても何ら関与していないことが認められるところ、右認定した諸事情からすれば、脱税が経済的にも引き合わないことを強く感銘させるという罰金刑併科の趣旨に照らし、被告人に対する罰金額を考慮するにあたって、被告人の父親の持ち分に関するほ脱金額をも含めた原判示の各ほ脱金額全額を基準とすることはむしろ当然のことであって何ら不当ではなく、所論は採用の限りではない。
また所論は、被告人は、自分が物上保証している佐藤工建の借入債務の弁済に充てるために本件不動産を売却したものであり、本件不動産売却に伴う譲渡所得については、あとわずかの条件が揃えば、所得税法六四条二項所定の保証債務の履行における非課税措置が認められる状況にあったもので、かかる状況下において、修正申告に基づく差額納税、延滞税、重加算税に加えて罰金刑を併科するのは、保証債務の履行における非課税措置を認めている所得税法の趣旨に照らしてバランスを失する量刑判断であり、少なくとも同種事案の罰金額の上限に相当する罰金刑を科するのは合理的ではない旨主張する。
しかしながら、関係各証拠によれば、被告人が本件不動産を売却処分したのは、実質的に被告人の個人企業である佐藤工建の経営を今後とも維持していくためには、金融機関等からの多額の借入金を返済して金利の負担を軽くしようとの経営者としての判断によるものであって、本件において物上保証の責任の履行という側面は薄いと認められる上、この点はさておくとしても、関係各証拠を検討してみても、本件当時佐藤工建の経営状態は、必ずしも良好ではなかったとはいえ、所得税法六四条二項にいう求償権の行使不能の状態あるいはそれに近い状態に立ち至っていたものとは認められないのであって、前記のような被告人が本件の脱税に及んだ経緯に照らしても、被告人に対する量刑を考慮するにあたり、所得税法六四条二項の趣旨を斟酌する余地はないというべきである。本所論も採用することができない。
したがって、以上の諸事情に照らすと、本件の犯情は決して芳しくなく、被告人の刑事責任を軽視することは許されない。
そうすると、被告人は、本件各犯行を認めて十分反省の態度を示していること、本件の各不正申告についてはいずれも平成六年三月に修正申告を行い、各本税及び重加算税について現在まで分割払いによる納付が行われていること、被告人は、長年にわたり佐藤工建を経営して土木建築の請負等の仕事に励んできたものであり、被告人には業務上過失傷害罪等の罰金前科が三犯あるものの、これまでに税法違反の前科や懲役刑に処せられた前科はないこと、その他佐藤工建の現在の経営状態など、所論が指摘し、当審における事実取調べの結果から窺われる事情を十分斟酌しても、前述した本件のほ脱額、ほ脱率、ほ脱の経緯や手口、動機などの諸事情を併せ考慮すれば、脱税が経済的にも引き合わないことを強く感銘させるという罰金刑併科の趣旨に照らし、原判決が、本件につき被告人に対し、執行猶予付きの懲役刑のほかに罰金刑を併科したことは何ら不当ではなく、また、所論に鑑み同種事案に対する量刑の実情を子細に検討してみても、一五〇〇万円という原判決の罰金額が、破棄しなければならないほど重きに過ぎて不当であるとまではいえない。論旨は理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉山禎治 裁判官 富塚圭介 裁判官 河合健司)
平成七年(う)第八一号
控訴趣意書
被告人 佐藤晧夫
右の者に対する所得税法違反被告事件の控訴の趣意を述べる。
平成七年九月八日
右弁護人 増田隆男
同 内田正之
仙台高等裁判所第二刑事部 御中
原判決が一五〇〇万円の罰金刑を併科した点には、左記に述べるとおり量刑不当の違法があるので破棄されるべきである。
記
一 所得税逋脱犯における量刑の基準
1 所得税逋脱犯における量刑の基準につき、東京高裁平成六年三月四日判決(判例時報一四九九号一三五頁)は「納税義務者自身が行為者である場合の所得税逋脱犯に対する従前の科刑の実情を通観するに、概ね逋脱額の大小に見合う懲役刑が科せられているほか、殆ど例外なく逋脱額の一定割合(平均的には二〇パーセント強であり、ここには、前記重加算税と相俟って被告人の金銭負担が余りにも過大となることのないようにとの配慮が窺われる。)の罰金刑が併科されるという運用が確立されていることは、当裁判所に顕著な事実である。このような運用の実情は、・・・(中略)・・・十分尊重すべきであり、事案の具体的内容に照らし、特段の合理的事由の認められない限り、これに反する量刑は相当性を欠くものというべきである。」(傍線は弁護人)とする。
右東京高裁の事案は、罰金刑を併科しなかった原判決を破棄して罰金刑を併科した、いわば原審の刑が軽きに過ぎたとした場合であるが、右基準は原審の刑が重きに過ぎた場合にも当然あてはまるものである。
2 前記東京高裁判決が言う「運用の実情」を検討するに、「所得税法違反・法人税法違反量刑調査表(最高裁判所事務総局、平成五年三月刑事執務資料第九号)」(この調査表の記載は裁判所に顕著な事実と考える。)によれば、所得税法違反事件一八七事例につき罰金額の逋脱額に占める割合は、特殊例を除いては一四、五パーセントから三〇パーセント強の範囲で分布しており(以下これを「量刑分布」という。)、二〇パーセント強という事案が最も多く、平均も前記東京高裁判決が述べるように二〇パーセント強である。
3 この点本件事案では、原判決認定の逋脱額合計は五〇四七万四六〇〇円であり、併科罰金額が一五〇〇万円であるから、罰金額の逋脱額に対する割合は二九・七二パーセント(小数点第三位を四捨五入)である。即ち、前記「量刑分布」上は平均をかなり越え、重い方の限界に近い割合となっていることがわかる。
二 「量刑分布」上の事案と本件事案との対比
1 まず、「量刑分布」上の事案は、前記東京高裁判決も述べるように、納税義務者自身が行為者である、換言すれば不法の利益の帰属主体が犯罪行為者自身であることを前提としているところ、本件事案では、逋脱額の約二分の一にあたる二五一七万九九〇〇円(被告人の父に関する逋脱額の分)については、納税義務者自身が行為者ではない。この点を原判決は全く看過している。罰金刑を併科しなかった原判決を破棄した前記東京高裁判決も、罰金刑併科の趣旨につき、不法利益そのものの剥奪が主目的でなく、不法利益を獲得しようとする犯罪行為の無益なことを犯人及び世人に悟らせる点に主眼があるとしつつ、平均二〇パーセント強という罰金額に対する逋脱額の割合について「ここに重加算税と相俟って被告人の金銭的負担が余りにも過大となることのないようにとの配慮が窺われる。」としているのである。本件原判決のように他人の譲渡所得についての逋脱額も自己の逋脱額と全く同視して、しかも「量刑分布」上の最高限に近い割合の罰金額を認定するというのは、右配慮を余りにも無視すること甚だしい。この点だけでも原判決の罰金額は不当に重いといえる。
2 次に、「量刑分布」上の事案というのは、殆どが、納税義務者自身が申告年度を通じて自己の営業行為に関して、脱税のための工作を繰り返し、しかもそれが三ないし二会計年度を通して行われたという事案である。平たく言えば、数年間にわたり、常習的に脱税行為を繰り返していたという事案(以下、これを「典型事案」という。)である。
しかるに、本件事案は、一回限りの不動産取引(因みに、この取引は被告人の営業行為として行われたものではない。)に係る脱税行為であり、しかも右取引の目的は物上保証している会社債務の弁済資金の調達にあり、観念的には逋脱事犯に言う「不法の利益」を得たとの評価を受けるかもしれないが、具体的には自己の資産の増加に何らつながらない事案である。さらに言えば国土利用計画法(以下「国土法」という。)上の規制がなかりせば脱税行為は存在しなかったという意味で偶発的とも言える事案である。
即ち本件事案は前記「量刑分布」上の「典型事案」に比して、犯行の計画性、犯意の常習性、継続性が稀薄である。脱税の手口に関しても、脱税のための方法は具体的には仲介業者島田氏の指示に従い、申告も島田氏の紹介した税理士に任せ、逋脱分に対応する譲渡所得も会社の事業所得として内容が不自然なまま計上するなど、「量刑分布」上の事案に出てくる様々な手口と比べた場合、決して巧妙とは言えず(国税局の調査にあたり、事案の解明が困難だった事情は何ら認められない。)、むしろ手口としては直ちに露顕するという意味で拙劣とも言える。
3 さらに、「量刑分布」上、本件のように単年度だけの脱税の事例は二十数例あるが、本件原判決よりも「罰金割合」(逋脱額に占める罰金の割合、以下同じ。)が高まったのはわずかに一例(三〇・〇七パーセント)だけで、その一例は無申告・逋脱率一〇〇パーセントの事案である。また、上記二十数例中不動産の譲渡所得税の逋脱事例は約一〇例あるが、本件原判決の「罰金割合」よりも高い「罰金割合」の事例は一つもない。しかも、「罰金割合」が二五パーセントを越えた事例が三例あるところ、一例は裁判制度を悪用するといったことまでした事例(罰金割合二五・二一パーセント)、一例は無申告・逋脱率一〇〇パーセントの事例(罰金割合二六・〇八パーセント)、もう一例は罰金刑のみ科された事例(罰金割合二七・〇一パーセント)であり、いずれも本件事例よりも情状が悪い。
4 以上、「量刑分布」上の「典型事案」・「単年度の逋脱事案」・「不動産譲渡所得逋脱事案」と本件事案とを比較した場合、本件事案が量刑上軽く処断されてしかるべきであることは明白である。因みに、福岡高裁平成四年四月一三日判決も、同種事犯との刑の均衡を考慮すると原判決の量刑のうち、罰金額の点において重きに過ぎるとして、原判決を破棄している。
三 保証債務の履行と資産の譲渡における譲渡所得非課税措置(所得税法六四条第二項)の趣旨と本件事案との対比
1 保証(物上保証も含む。)債務を履行するため資産(不動産)を譲渡した場合には、その資産の譲渡について譲渡所得を生じることとなるが(本件でも課税対象は不動産の譲渡所得である。)、その譲渡代金をもって履行した債務についての求償権の行使ができないこととなったときにまで譲渡所得税を課することとすると(物上)保証人には極めて酷な結果となる。
そこで、所得税法は、(物上)保証債務履行のために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使不能の金額について譲渡所得がなかったものとみなすことにしている(所得税法第六四条第二項)。
2 本件事案について言えば、被告人はまさに自分が物上保証している株式会社佐藤工建の借入債務の弁済にあてるために不動産を売却したのであり、実際、売却代金の殆ど全部が右借入債務の弁済にあてられたことが記録上認められる。検察官も論告要旨において「逋脱の動機は、会社の借入金の返済資金確保のためで、現にその返済や事業資金に当てたようだが」あるいは「被告人は、本件不動産の売却代金を、すべて会社事業の借金返済に当てるために」と述べている。
しかも右佐藤工建は、最近は赤字続きの会社であり、被告人の求償権の行使が困難であることは明らかである。この点、佐藤慶子の検面調書によれば、被告人の父である佐藤勇光に対してだけは月々五〇万円ずつ返済していることが窺えるが、これもいつ滞るかわからない経理状況である。さらに言えば、月々五〇万円の返済というのは、一年間で六〇〇万円になるが、被告人の父と被告人の求償権は六億円超である。六億円の法定利率(年五パーセント)は三〇〇〇万円であるから月々五〇万円の支払いというのは法定金利にすら遠く及ばない数字である。遅延利息その他あらゆる利息を除外して純粋に元金の返済だけ考えても求償権までに一〇〇年以上を要する計算となる。こうした点からしても、実質的には被告人らの求償権の行使は不能に帰していると言っても過言ではない。
3 このように、本件の被告人の不動産の譲渡所得については、所得税法上も、あとわずかの条件が揃えば保証債務の履行における非課税措置が認められるような状況にあった。
所得税法違反は違反としても、かかる状況において、修正申告に基づく差額納税、延滞税、更に重加算税に加えて、罰金を併科するというのは、前記保証債務の履行における非課税措置を認めている所得税法の趣旨に照らして、バランスを失する量刑判断というべきである。少なくとも「量刑分布」上の上限に位置する罰金刑を課するのは全く合理的でない。
四 国土法違反の点を併科罰金刑に強く反映させることの不当性
1 原判決は、(量刑の理由)の箇所で特に国土法違反の点については言及していないが、一般論として、国土法違反の点を量刑の判断に際し、重くする事由として検討すること自体は是認されよう。
もとより、国土法違反の罪で起訴されていない場合(本件もそうである。)に、この点を実質上処罰する趣旨で量刑に反映させることが許されないことは言うまでもない。
2 ところで、本件事案関連での国土法違反の刑罰規定によれば「六月以下の懲役又は百万円以下の罰金」が法定刑である。従って、懲役刑で考慮する場合は別として、法人税法違反において罰金刑を併科するに際して、国土法違反の点がない場合よりも罰金額を一〇〇万円単位で重くするとすれば、それはまさに国土法違反の点を実質的に処罰すること、場合によっては国土法違反の点が別途起訴されて処罰される場合よりも重く処罰することに他ならない。
3 それゆえ、本件事案において、国土法違反の点が量刑上重くする方向で考慮されることがあるとしても、これをもって併科罰金刑を「量刑分布」上の上限に位置づけることを正当化する理由にはおよそなりえないというべきである。
五 結論
1 こうしてみると、本件事案は、<1>本来被告人自身が納税義務を有する部分の逋脱額は原判決認定額の約二分の一である点<2>脱税行為の非計画性、犯意の脆弱さ、反覆・継続性がいずれも否定される点<3>「不法の利益」取得意図の現実的稀薄さ(保証債務の履行目的)<4>保証債務の履行における非課税措置の趣旨とのバランス、のいずれよりしても、罰金額の逋脱額に対する割合の平均が二〇パーセント強という「量刑分布」上の事案に比して、量刑上軽く扱われて然るべきである。
2 これに加えて、被告人及びその家族らの資産的状況その他原審の弁論要旨でも述べた諸々の事情からすれば、本件については、特に右<4>のバランスを考慮して罰金刑を併科しないとするのが相当な事案である。
3 仮に罰金刑を併科するとしても、基本的には被告人自身の逋脱額(二五二九万四七〇〇円)に対する相当割合、その割合としては「量刑分布」でいえば平均以下(二〇パーセント強以下)を罰金額の上限とするのが本件事案における相当な量刑判断である。
よって、原判決の重きに過ぎ、刑の量定不当の違反があるので破棄を求める次第である。